2005年度 政治学研究会読書案内

これからちょっと勉強でもやってみようかな…と思っている人へ。

読書は鍵を開ける行為によく似ている。本という鍵によって自らが持つ鍵穴を回されたわれわれは悩み、考え、変わっていく。

しかし、ある人に非常に面白かったと紹介された本でも自分は何も感じなかった、なんてことはしょっちゅうある。それを繰り返して自分の鍵穴に合う鍵を持つ本がわかってくる。

しかし人生は短く、大学生活は4年間しかない。このパンフレットまがいの小冊子には政治学研究会の会員がこれまで読んだ中で、「これぞ」という鍵を持つ入門書を分野別に紹介してある。自分の鍵穴に合う鍵どころか鍵自体備えてい ない本が氾濫する中で、鍵探しの世界地図として活用して欲しい。

  1. 政治学一般
  2. 日本政治
  3. 憲法・行政学・地方自治
  4. 国際政治学
  5. 各国・地域研究
  6. 経済学・経営学
  7. 社会学
  8. 政治思想・社会思想
  9. 人文学一般
  10. 自然科学一般
  11. その他

01. 政治学一般

佐々木毅編『現代政治学の名著』(中公新書)
政治学はじめ大学の授業を受けていると、先生方から「古典」や「名著」の類を薦められることが多い。しかしそうは言ってもなかなか読める代物ではない、そこで現代政治学を学ぶ上でよく引用される「古典」や「名著」を、そのエッセンスを取り出して解説したのがこの本。ウェーバーからハイエク、アーレント、丸山眞男まで一気に食すべし。
篠原一『市民の政治学』(岩波新書)
変容している市民の政治参加を、ヨーロッパの歴史を使い、どのように変わってきて、今後どのように転換していくかを考える上でも読むべき。
大嶽秀夫・鴨武彦・曽根泰教『政治学』(有斐閣)
政治学のマッピングにちょうどいい。各分野のエッセンスを無理矢理詰め込んだ感はあるが、様々な分野のある程度の議論はカバーしているので辞書としても使える。

02. 日本政治

G.L.カーティス『日本の政治をどう見るか』(NHKライブラリー)
日本政治研究の第一人者による入門中の入門書。日本政治全般を概観しながらも教科書にありがちな没主観的記述を排している点で一押し。これが気に入れば次は『永田町政治の興亡』(新潮社)に進むべし。
加藤秀治郎『日本の選挙』(中公新書)
政策とは、悲しいかな、その優劣によってのみ決定されるわけではない。それは政治の世界であるがゆえに権力関係がつきまとうことはやむをえない。ゆえに権力者を決める選挙なるものはすべからく知るべきなのだ。しかし選挙について書かれたものはイマイチよくわからない。それは理論書になればなるほど、そして日本の選挙にっいて書かれたものになればなるほど、である。その理由はこの本を読めば氷解するだろう。
京極純一『日本人と政治』(東京大学出版会UP選書)
著者の政治評論や政治解説を集めた本「政治について」「日本の政治システムについて」「金権政治について」の三部で構成される本書は、1986年に書かれたものではあるが、現代日本政治の意味を読み解くために今でもかかせない手引書となっている。
北岡伸一『「普通の国」へ』(中央公論新社)
村山・橋本・小渕内閣期に書いた論文を集めたもので、政党政治、政治改革外交まで幅広く扱っている。時事評論のため読み易いが、その鋭い視点や根底にある思想は賛否どちらの立場であっても必読かつ有益である。

03. 憲法・行政学・地方自治

渋谷秀樹・赤坂正浩『憲法』(1・2)(有斐閣アルマ)
憲法を学びたい学生にとって忠告したいことは、憲法とはただの法律ではないということである。その成立史をひも解けば、中世以降のヨーロッパ史を一通り知ることになるだろう。ゆえに憲法を学ぶ上で重要なのは、その歴史を知ることといっても過言ではない。それを抜きにして(それだけでは困るが)判例だけを覚えてもただの法律マシーンにしかなれないだろう。
長野秀幸・川崎政司『行政法がわかった』(法学書院)
一般に「行政法」と呼ばれるものの内容は多岐に渡る。故に、初学者にはなかなか勉強しづらい。この本は、そうした特徴を持つ行政法の全容をわかり易く解説している。軽い流し読みを数回繰り返すだけでもかなりの収穫が得られる。
村松岐夫『日本の行政』(中公新書)
誰もが行政学の人門に最適と推すだろう基本文献である。特に官僚悪玉論を信じる人は、官僚を過大評価も過小評価もすることなく分析する本書の冷徹な日があることを知って欲しい。
松下圭一肺『市民自治の憲法理論』(岩波新書)
書かれてから20年ほど経つが、その問題意識は今日でもなお、みずみずしい新鮮さを有しており、かなり先見性の際立ったものである。もし、今日の分権改革について、その理念を示すものを挙げるとするならば、私ならこの本を迷わず挙げる。

04. 国際政治学

高坂正発『国際政治』(中公新書)
古い本ではあるが、これから国際政治を勉強するに当たって、国際政治を捉える視点や国際政治の考え方を養うためには読んでおくべき一冊である。
入江昭『日本の外交』(中公新書)
『国際政治』と並ぶ不朽の名著として名高い。約40年前に書かれたにも関わらず本書の示唆する教訓は重い意味を持つ。高校で世界史を学んでいた者は高坂や中西から、日本史の者は本書から国際政治学に入るのが適当であろう。続編『新・日本の外交』(中公新書)も必読。
田中明彦『新しい中世』(日経ビジネス人文庫)
現在の世界を、新中世圏・近代圏・混沌圏の三つに分けて国際関係を捉えるという大変面白い本であり、9.11 テロ、イラク戦争などを考える上でも読むべき。

05. 各国・地域研究

船橋洋一『同盟を考える』(岩波新書)
平易な文で世界の様々な「同盟」関係を比較する。その中から興味ある地域研究に進むもよし、日米同盟を多角的に考えるもよし。教養として読み流しても面白い。
佐伯啓思『新「帝国」アメリカを解剖する』(ちくま新書)
前著『「アメリカニズム」の終焉』(TBSブリタニカ)において著者が展開したグローバリズムという名の「アメリカニズム」批判の、その発展版である。9.11のテロ後に書かれた本なのでそのあたりのことも踏まえて論じられている。必読は第一章に書かれている彼の文明論である。「文明内の衝突」と「文明と文化の衝突」は、それぞれ大澤真幸『文明の内なる衝突』(NHKブックス)と西川長夫『国境の越え方』(平凡仕ライブラリー)をうまく援用している。
酒井啓子『イラクとアメリカ』(岩波新書)
フセイン登場から権力を握る過程、それとアメリカとの関係史を描く。イラク戦争を考えたい人はまず本書を手に取ってみては。最新刊『イラク戦争と占領』(岩波新書)もあるがまずこちらから読むのがベターか。
立山良司『イスラエルとパレスチナ』(中公新書)
激動するイスラエルーパレスチナ問題、その複雑な歴史的経緯を明快に解説しており、それを踏まえた上で和平への展望を模索する挑戦的な一冊。中東和平をより深く考えるきっかけを与えてくれるであろう。
池内恵『現代アラブの社会思想』(講談辻現代新書)
9.11テロ やイラク戦争の背後にあるものに関して陰謀論が渦巻く中で、アラブに同情するでも偏見を持つでもなく実証的に研究した貴重な文献。読み終わる者に「テロ反対」「戦争反対」「アメリカ反対」と発言する際の歴史的重みを自覚する責任を課す。それほどにアラブ世界は悲惨である。

06. 経済学・経営学

岩田規久男『経済学の学び方』(ちくま新書)
長年、経済学をリードしている筆者による、マクロ経済学とミクロ経済学の両方を丁寧に説明している好著。巻末には筆者自身による各経済分野の入門書も紹介されており、筆者の誠実さもうかがえる。
野林健・大芝亮・納家正嗣他『国際政治経済学入門』(有斐閣アルマ)
政治を考える上では経済は切り離せない分野であるし、グローバル化が進んでいる国際政治経済を学び、考えていくためには入門書として読んでおいた方がよい。
A.セン『貧困の克服』(集英社新書)
ノーベル経済学賞を受賞したセンによる4回の講演(シンガポール・ニューヨーク・ニューデリー・東京)が収められている。人間中心の経済政策への転換の必要性を説く。
森嶋通夫『思想としての近代経済学』(岩波新書)
本書は、登場する11人の経済学者の業績を個々に扱うのではなく、その思想の流れを追うことによって関連付けている経済学史である。入門書とはいえ決して読みやすい本ではないが、この本が理解できれば経済学は理解できるので、頑張って欲しい。

07. 社会学

富永健一『社会学講義』(中公新書)
新書で社会学全般を扱っている本は少ないので、かなり貴重。内容は論争的なものも含んではいるが、現在の日本社 会学のスタンダードのひとつであることには間違いない。社会学を学ぶ人は必読であろう。
見田宗介『現代社会の理論』(岩波新書)
私たちはどういう世界に生きているのだろうか。本書の見出しには見慣れた用語が並んでいるが、それらの本質を理解している人がどれだけいるだろうカ。大量生産と大量消費、環境問題、南北問題。学校で学んだ欺瞞を本書によって考え直してほしい。
佐藤俊樹『不平等社会日本』(中公新書)
社会学という学問を知っているだろうか?本書は社会学のベストセラー入門書である、日本人の8割が中流意識を持っているといわれるが、一億総中流は本当なのか?日本は努力すれば報われる社会なのか?学歴はその人の実力を反映しているのか?本書を踏台にして社会学の扉を開いてほしい。
E.フロム『自由からの逃走』(東京創元社)
人は過度の自由に満たされると孤独や不安感にさいなまれ権威者への隷従に陥りやすいと説く。全体主義のメカニズムを解明する。大学生活を始めて自由な時間が増えてお困りの方必読の書。
苅谷剛彦『階層化日本と教育危機』(有信堂高文社)
平等を建前としている教育の世界において、実際には階層が存在し、その階層化の現状とそれが社会に与える影響を、実証的に考察した本。教育に関しては自分が実際に受けてきただけあって多くの人がおそらく何らかの意見を持っているが、現象を社会科学の方法論から観察した際のこのような見え方は、そのような主観的な見方と大きく異なってくることを教えてくれる。

08. 政治思想・社会思想

杉田敦『デモクラシーの論じ方』(ちくま新書)
政治思想の復権を牽引する若手による格好の政治学入門書。立場の違う二人の論者による討論によって政治のあらゆる問題が取り上げられていくため、非常に読み易いにもかかわらず提起される問題は根が深い。そして何よりも本書自体が政治を体現するという意味でもまさに政治学入門である。
仲正昌樹『「不自由」論』(ちくま新書)
本書は「自己決定」をめぐる教育論としても読める。しかし私がこの書を強く、強く薦めるのは日本における最高水準のアーレント思想入門書であるからだ。アーレントは誤解されている。著者は「アーレントのハバーマス化」と表現しているが、言いえて妙である。もっとも、一回生にはここまでの理解は厳しいので、とりあえず現代教育論として読むとよいだろう。
K.マルクス・E.エンゲルス『共産党宣言』(岩波文庫)
マルクス主義の基本文献。プロレタリアートの役割と革命の勝利を叙述している。E.エンゲルス著『空想より科学へ』(岩波文庫)を注釈本として併読すると効果的である。
丸山眞男『日本の思想』(岩波新書)
日本人の内面や思想のあり方を詳細に分析する。丸山眞男は戦後の日本における政治学の世界で代表的な学者で、政治学をするなら一度はその著書を読むことになるだろう。彼の展開する日本人論は、相当の年月を経た今でも色あせることがなく、身の回りの諸出来事を考える場合でさえも参考にできるものである。難解な本だが、一度読んでみてほしい。

09. 人文学一般

内田樹『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)
専門書を読むよりも.入門書を読むほうが面白いといってはばからない愉快な哲学者が内田樹である。そんな彼が書いた現代哲学の入門書であるから面白くないはずがない。哲学といえば、小難しい理論をこねくり回して、分かりやすいことをわざわざ分かりにくい言葉で持って難しくさせているというイメージを抱いている人には最高の入門書となるだろう。しかし本気で読むと、とてもじゃないが「寝ながら」は読めない。
福沢諭吉『学問のすすめ』(岩波文庫)
誰もがその名前を知っている本であるが、読んだことのある人どころか、内容を知っている人すら思いのほか少ない。序文の有名な天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らずと言へりという詞がこの本の趣旨だと思っているならばそれは大聞違いである。学問の修得の意義を啓蒙し、近代の価値観を支配する立身出世主義の奔流を巻き起こした、当時の超ベストセラー。どうしても擬古文調の文章が読みづらいならば、(はるか昔に絶版になっているが)旺文社文庫版のものを探して読むといい。
三笠書房から現代語訳版が出ています。
網野善彦『日本中世の民衆像』(岩波新書)
先日亡くなられた網野氏の業績は数多くあれども、そのもっとも偉大なるは、日本における「百姓」観の転換である。柳田國男以来の民俗学がその発展の歴史であるとすれば、歴史学は柳田の突きつけた「常民」理論の超克にあったといえる。網野氏は「百姓=農民」という日本人のイメージを根底から覆し、柳田の超克に成功したのである。この思想的ドラマは涙なしに語れない。
吉田裕『昭和天皇の終戦史』(岩波新書)
近衛文麿や木戸幸一といったいわゆる「宮中グループ」と呼ばれる人々を中心として、終戦直後から極東軍事裁判にかけての「国体護持」を巡る昭和天皇周辺の動きを追っている良書である。天皇の戦争責任を考えるきっかけとなる一冊と言えよう。
E.H.カー『歴史とは何か』(岩波新書)
歴史とは現在と過去との問の尽きることを知らぬ対話である。前記の言葉は非常によく引用されるものであります。この言葉は歴史を学ぶ人間に絶えず問いかけます。なぜなら「歴史」的なことは人々のうちに多かれ少なかれ影響を与えかねないものであり、そのことを現代の我々は肝に銘じなければならないからです。つまり、歴史とは安易に捏造されるものであると同時に人々の心を豊かにするものでもあり、我々の過去の偉大さと愚かさを映し出している鏡のようなものだということです。

11. 自然科学一般

今西錦司『生物の世界』(中公クラシックス)
長年絶版となっていた名著が復刊された。これは今西生物学が今また見直されつつある証拠に違いない。今西の「種」理論は生物学にとどまらず、広く社会学にも援用されている。そしてこの本が感動的なのは、今西が戦争中に遺書として書き残したものであるからである。
下條信輔『サブリミナル・マインド』(中公新書)
人間は自分の思っているほど自分の考えていることを認識できていないということを、本書は認知心理学の立場から説明している。それがすごく明快で読んでいて面白いのだ。これを「自己決定」の議論に援用してもいいし、もっと哲学的に考えてもいい。姉妹書の『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)も抜群に面白い。
村上陽一郎『科学の現在を問う』(講談社現代新書)
科学技術の発展は人間をどこまで幸せにしたのだろうか?原発の問題やクローン技術の問題などをニュースで知って疑問に思った人にお薦め。「学問の枠にとらわれず」活躍する著者の刺激的な一冊。文理問わず手に取るべし。
毎日新聞科学環境部『理系白書』(講談社)
日本は科学技術立国なのだろうか?理系をあまりに冷遇してきた日本の科学的地位は危ういものであることを本書は指摘している。青色LED裁判で200億円の報酬が話題となった中村修二氏の記事もあり、今後の日本を科学技術の観点から論じる上で欠かせない一冊。

11. その他

齋藤孝『読書力』(岩波新書)
何のために読書をするのか、読書にはどのような効用があるのか。『声に出して読みたい日本語』(草思社)で有名な齋藤孝による読書論。やさしい文体なので、誰にでもすぐ読める。できるだけ早い時期に読みたい。巻末の文庫百選がうれしい。
野口悠紀雄『「超」文章法』(中公新書)
「超」シリーズでお馴染みの野口氏。著者の経験をもとにしたアドバイスは例によって実践的で好感が持てる。文章を書く機会が多く、それに頭を悩ませる現代人の必読書。レポートなどの初歩的なフォーマットが分からない人には小原喜康『大学生のためのレポート・論文術』(講談祉現代新書)を薦める。
香西秀信『議論術速成法』(ちくま新書)
洋邦問わず多くの思想家の文章を例に取り、その議論の型(トピカ)をわかりやすく、且つ、読者自身にも利用でき る形で解説した一冊。文章や口頭での表現力を養いたい人にお勧め。
渡部昇一『アングロサクソンと日本人』(新潮選書)
国際政治を語るうえで欠かすことのできないアングロサクソン。そのアングロサクソンを極東の島国日本と対比させながら、その類似点を解き明かす本書は日本人にとって興味深い示唆を与えている。英国に親しみを覚える一冊。

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